コラム 「馬を訪ねて三千マイル」 #1

2024-02-08

コラム:馬を訪ねて三千マイル

t f B! P L


馬について書かなきゃいけないのはわかっているのである。

社長はブログ更新のプレッシャーをかけてくる。休診日の朝は特に活発だ。調教師や育成さんとのLINEグループで全方位的に近況を訊きまくっているし,それは「お前もブログ更新しろよ。なんかネタないのかよ」という無言の圧力となってのしかかってくる。

だが,だがしかし,私は飛行機に乗るので忙しいのである。ヒマさえあれば安い航空券を探し,獲得できるフライオンポイントやマイルを計算し,後回しにしていた現地ホテルの予約に勤しまなければならないのだ。

1日のうち15時間くらいは搭乗のことを考えている。残り9時間のうち2時間くらいはホテルのことを考えている。その合間に馬のことを考えなければならない。

一応,せめてもの罪滅ぼしにできるかぎり現地で競馬関係のイベントをこなすことにしている。せめてもの罪滅ぼしに現地の競馬場(廃競馬場のこともある。競馬関係ならなんでもいいから…)を訪問する。せめてもの罪滅ぼしに現地の乗馬パークを撮影したりする。

でもそれは言い訳なのだ。私が話したいのは羽田→鹿児島→奄美大島→徳之島→沖永良部島→那覇→沖永良部島→徳之島→奄美大島→徳之島→鹿児島→羽田,と1日11フライトをこなし,途中CAさんに「私はここまでで交代なので次のスタッフにもお客様が身体壊さないようちゃんと引き継いでおますから」と言われたことだったりするのだ。

あるいは早朝から伊丹→但馬→伊丹→出雲→伊丹,と飛んだ際,大きい荷物を伊丹のコインロッカーに預け街歩き用のごく軽く小さいリュック一つで飛行機に乗り込み「さすがプロ搭乗者だろ。こんなに慣れてる客はいないだろ」と一人悦に入っていたら,他に3人おなじ旅程の同好の士がいて,しかもそのうち2人は昭和のサラリーマンよろしく完全手ぶらで,さらにうち1人は上下ジャージという完全プロファッションで業に励んでおり,そこはかとない敗北感にさいなまれたことを書きたいのである。

はたまた,アメリカの入国審査で

 「入国理由は?」

 「乗り継ぎです」

 「どこに乗り継ぐの?」

 「これからボストンを経由して最終目的地は東京です」

 「ファッッ!?だってあなた今東京から来たじゃない」

 「マイル修行してるんです」

 「オークレイジー」

 「どうも」

 「私の目的は不法に滞在する人間を入国させないことで,あなたもはやくこの国を出国したいと思っている。お互いの利害は一致しているわね。いいわ。とっとと入国してとっとと出国したらw 不法な食べ物は…持ってるわけないわねその軽装で…」

と呆れられたことなどを話したいのである。

だがこの場は馬のことを書かないといけないのだ。とても悩ましい。と。こういう構成で結局書きたいことを書くというのは昔から得意の技なのである。…おおおおお。こうやって飛行機のことを書いている間に社長が激安馬を落札していた……。おおお…。

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