2019年9月4日。私の馬主人生はこの日にはじまる。
その日私はいつものように名古屋競馬の馬券を買っていた。変に荒れてとにかく当たらない。午後3時を過ぎたところでウン万円負けていた。よし。勝負レースは次の9R平場戦。11頭立てのB級3組だ。
本命はすぐに決まった。角田厩舎のハーツジュニア。中央1000万から転入してきてここまで名古屋で4戦2勝。近2走は1400mで決め手のなさに泣いたが、マイルに伸びたここの方が向くはず。ここは好位から抜け出すはずだ。
問題は2着争い。新聞のコメントを熟読する。今井騎手の2番プリンセスミオは「ポンと行ければ」、丹羽さんの3番マイネルセッカが「ハナへ行ったのと好位では走りが違う。逃げれば気の悪さも見せず集中できるんだ」。4番プローチダ(山田祥雄騎手)「行かせれば速いんだ。ただ千四でも止まってしまったと千六では不安が先立つね」、聡一くんの10番ヴィエントゴールドも「先手が取れれば」と、土古の上級戦らしく逃げ馬揃い。2番人気の6番ハミングパッションも「もうハナに固執しなくても力を発揮できる」とあるが、別の言い方をすれば「(固執はしないが)ハナなら間違いなく力を発揮できる」いうことなわけで、とにかく速くなりそうだ。
「村上くんだな」
前走特別で6着と善戦している最内のホーリーカバージョに決めた。3コーナーの引き込み線からすぐコーナーを迎える土古のマイルは、とにかく内が有利なのだ。決め手もある。ハイペースで前がつぶれればこの馬が2着だろう。
「2が逃げ粘って3着ってのはあるよな…。3は好位でも競馬できるから押さえて…。あとは差し馬のフォーユアラブと大穴で戸部さんのミズデッポウ…。8枠の聡一くんは逃げられず厳しいだろうし、千四で逃げられたのにバテたプローチダは逃げられないここでは絶対にない!」
とにかく固い名古屋競馬銀行(当時)で点数を増やすのは御法度である。私は
8(1人気)→1(6人気)→2(5人気)3(3人気)5(8人気)6(11人気)
と、3連単4頭に絞り、その日の負け分をすべて取り返すだけの大枚(当社比)を賭けた。
レースが始まる。丹羽さんの出がいいがコーナーで枠なりの2がハナを奪う。しめしめ予想通りだ。ペースはめちゃくちゃ速い。ハーツジュニアは持ったまま。当たり前だ。中央の1000万下で走っていた馬。ハイペース適性が違う。好位にいた馬がバテはじめ、ハーツジュニアと逃げ粘る2。そして4コーナー大外をまくってくる1番村上くん!
「111111111111111111」
「むらかみくーーーーーーーーーん」
「111111111111111111」
「むらむらむらむらむかみかみかみかみかみ」
村上くんが今井を差したところがちょうどゴール。
「よしよしよしよしよしよしよしよしよしっっっ」
「村上くんGJGJGJGJGJ」
畑野アナのキュッキュッっというペンの音が勝利のサインに聞こえてくる。いやーよかった。ここまでハズレまくった4時間よく耐えた。得意気有頂天上機嫌でVTRを見る。ただ馬券があたっただけでなく展開も予想通りドンピシャだったので天才なんじゃないかと思ったり。
「8番のハーツジュニア、人気に応えて抜けましたが2着争い大混戦!最後大外から突っ込んできたのが1番ホーリーカバージョ。4番プローチダに3番マイネルセッカに2番プリンセスミオ11番ラズワルドさらに9番サウスシュネルも差なく入線しておりました」
「ん?」
「んんん?」
「んんんんん?」
4?4?なんで千四で逃げて垂れたプローチダがいるの?いや、そもそもどこにいたの?おおおおお。1番と併せ馬になって追い込んできてるじゃないか1の陰になって気づかなかったぞ。いや、なんなん。4は買えない。あと20年馬券買いつづけたとしても買えるようになる気がしない。だいたい今日1日でいくら負けてるんだよ。10万としたって年間110日の名古屋開催このペースで負け続けたら1100万の負けだぞ。破産だ破産。こんなん持ち馬走らない馬主よりマイナス大きいじゃないか。
ん?
馬主か…
「名古屋競馬 馬主」で検索してみる。「一般社団法人愛知県馬主協会」か…。馬主資格もないのにこんなの見てもな…。ん?馬主セミナー?馬主資格取得に興味ある方を対象に、馬主取得についてレクチャーし、資格取得をサポートしてくれるの?
こうして私は「愛知県馬主協会」に「馬主セミナー受講希望」という件名のメールを送ったのだった…。これが壮大な馬主沼の入口になるとは、そのときは夢にも思っていなかったのである。